一年3

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 言葉を交わしても居心地の悪さは変わらなかった。  由利は謝るなら今しかないと思った。  このタイミングを逃してはいけない。 「ごめんね。朝、ひどいとか言って」  佐々木の顔色を窺うと怒っている風でも落ち込んでいる風でもなかったので謝る必要はなかったように感じたが、それでも謝ったのは自分のためだった。  謝れば心の中の靄が晴れる気がした。 「謝らなくてもいいよ。ひどいのは事実だから」  佐々木は朝見せたのと同じ柔らかい笑顔だった。  由利に気を使っているわけではなく本心で言っている。 「でも……」と由利は言い淀んでしまう。  何と続ければいいのか分からない。 突然、「なあ。上本から見て俺ってどう見えてるのかな?」と言ってきた。 「どう見えてる?」 「俺は本当に朝言ったみたいに上本は偉いと思う。やっぱり俺って上本から見たらひどい人間なのかなって」  先ほどとは違い表情がなくなっていて感情が読みにくい。  それでも卑下しているようには感じない。 「そんなこともないと思うけど」  曖昧な返事で言葉を濁した。 「朝から色々と考えたんだけどさ、俺と付き合ってほしいんだ」
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