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ここで今まで佐々木たちの話を黙って聞いていた由利が口を挟んだ。
「何でそこまで仕返しにこだわるの? もし失敗したら、今度は大怪我しちゃうかもしれないよ」
その口調は心配しているようではなく、ただ疑問に思ったことを口にした、というような雰囲気だ。
佐々木たちを咎める様子はない。
佐々木は答えようとするが、その疑問の答えが分からない。
なぜ仕返しする必要があるのだ。
答えに窮し、しばらく自問自答していると、高屋が得意顔になって答えを示した。
「それは最後の思い出作りって言えばいいのかな。ほら、俺たちが一緒にいれるのもあと半年もないだろ。だから最後に何かしたいんだよ」
常に成績でトップ争いをしていた佐々木は親の期待を一身に背負い東京の大学へ行くつもりだった。
模試の判定などからもそれは既定路線だ。
一方、高屋は入学当初の成績こそまずまずと言えたものの、時間が経つにつれて着実に成績を落としていった。
今となっては、よく留年せずに三年生になれたなと感心されるほどの成績だ。
毎年、留年をギリギリで逃れてきた勝負強さだけは認めるが、成績が発表されるたび、「俺は野球でこの学校に来たようなものだからな」と言って反省の色を見せないのは頂けない。
それにもちろん、この学校にスポーツ推薦なんてあるはずがない。
そんな高屋が佐々木と同じ大学へ行けるわけがなく、よって佐々木たちが一緒にいれるのはこの高校生活で終わりということになる。
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