三年2

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 高屋の答えを聞いた時、佐々木は頭の中でふっと氷が解けたような感覚があった。  心のどこかでこの日常が終わることを意識していたのだ。  それが高屋の言葉の中で、氷に包まれた感情が雪解け水のように、はっきりとした感覚をもって流れ出した。 「仕返しっていったって、喧嘩しに行くわけじゃない。少し話をしに行くだけだよ。襲った理由を聞いて、人違いだったら謝ってもらう。だから、基本的には怪我の心配はないよ」 「おい、そんなことでいいのか。俺たちの最後の思い出がそんなに地味でいいのかよ」  高屋はこの事件に関して何一つ自分の思い通りに話が進まないことに苛々しているようだった。 「殴られたからって殴り返してもまた殴り返されるだけだろ。それじゃ、何の解決にもならない。それに、俺たちみたいなろくに喧嘩もしたことがない奴が喧嘩を仕掛けていっても返り討ちにあうだけだ」  佐々木はまたしても高屋を宥めた。 「お前は本当にリスクを冒そうとしないな。まあ、いいや。あ、そう言えばさ、小林瑞穂って今どうしてんのかな?」  小林という名前に由利の顔色が変わったように見えた。 「何で今、その名前が出てくるんだよ?」  高屋を襲った犯人よりもこいつを殴りたいと思った。
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