三年3

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 佐々木の言いたいことは分かっていた。  どうせ、頭の回転、とか言いたいのだろう。  でも、それは佐々木が分かっていないだけなのだ。  キャッチャーはピッチャーの状態から相手選手の得意、不得意なコースや前の打席の配球、次の打席に向けての配球など一瞬で様々なことを考えている。  リードには自信がある自分の頭の回転は悪くない。  とりわけ野球においては、例え佐々木が野球をしていたとしても負ける気はしなかった。  しかし、それを何度言っても佐々木は聞く耳を持たなかった。  結局、試合は高屋のチームが一対〇で勝った。  藤崎がペナルティエリアの少し外のやや左よりの位置から、相手のクリアミスで高く上がったボールを体を左に倒しながら右足のダイレクトボレーで打ち込んだ。  放たれたボールはバーを叩き、ほぼ鉛直方向に落ちて、地面に跳ね返り、ゴールネットを空へ向けて突き上げた。  すごいと思うしかなかった。 「何だよ、今の」「すげえ」とみんなで藤崎を囲む。 「いや、たまたまだよ。もう一度やれって言われても絶対無理だよ。人生最高のゴールだったな」  入った時に誰よりも驚いた顔をしていたから、それは嘘ではないのだろう。  周りで見ていた女子もきゃあきゃあ黄色い声援を送っていた。
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