三年1

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「それは運が良かったな」  佐々木はあえて何の抑揚もなくそう言ってやった。 「おい。もうちょっとリアクションの仕方があるだろ。俺のピンチに正義のヒーローが現れたんだぞ。それでもそのリアクションなのか? つまらない奴だな」  高屋はがっかりしたことをアピールするために、大げさに自転車を持っていない方の腕を広げてみせた。 「実際にそんなに面白い話じゃないだろ」 「何をそんなに苛々してるんだよ?」 「別に苛々なんてしてないよ。いつもと変わらない」  確かにこの時、佐々木は苛々していた。  だが、佐々木にはその対象物が何なのか分からなかった。  じろじろ眺めてくる人に対して? それとも、朝から昨日の出来事を自慢げに話す高屋に対して?  答えが見つけられなかったが、そのどちらでもないことだけははっきりしていた。  心の中に、悶々とした感情だけが取り残された。
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