三年3

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 高屋は、はあとため息をついた。  これ以上言っても無駄だ。 「でも、あいつの顔ぐらいは覚えとけよ。今、大学生の今年のドラ一候補の……」 「はいはい。あのリーグ本塁打記録を塗り替えそうな人だろ。何回同じ話してるんだよ。いやでも覚えたって」 「今から注目してると絶対、後で自慢できるからな」  その人は十年に一人の逸材と言われていた。  毎年、その肩書を持つ選手が出てくるのだが、その人は本当の意味でそうだ。  野球界では既に有名だが、一般的にはまだ知られていない。  とにかくセンスがずば抜けているのだ。  ショートをこなす鮮やかな守備もそうだが、何と言ってもバッティングが素晴らしい。  決して体格に恵まれているとは言えないがミートのうまさでそれをカバーしている。  バットで一定のリズムを刻み、大きく足を上げ、一直線にボールに向かってバットが振り下ろす。  そしてそのバットで打たれたボールは美しい放物線を描き、いつまでも落ちてくることがないのではないかと思うほど高々と上がる。  そのバッティングに憧れ、高屋も元々はバットを止めて構えていたが、バットでタイミングをとるようになった。  そのまましばらく女子の試合を見ていた。  やはりスポーツは見るよりやるものだ。  見ていて楽しいのは野球だけだと再確認して、退屈だった。
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