三年5

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 高屋は予備校で物理の授業を受けていた。  黒板の前では眼鏡をかけた講師が単振動と円運動の関係を説明している。  そう言えば大分前に学校の授業でもそんなことを言っていたなと思い出していたが、内容はほとんど入っていなかった。  等速円運動を一次元的に見れば単振動と同じ挙動を示すと言われてもそれがどうかしたのかと訊き返したくなる。  それでも、一応真面目に板書を取ることにした。  元々、高屋にとって物理は一番好きな科目だった。  物理が好きと言うよりかは、学校の物理の先生が好きだった。  最初はあまり興味がなかった物理もその先生が、変化球が曲がる理由は実は回転により生じるボール表面の気圧差によるものだとか軟球の表面の凹凸があるために空気抵抗が少なくなるとかを教えてくれたことで興味が湧いた。  身近なこと、それは高屋にとって野球だったのだが、それと結びつけて説明してくれると楽しくなってきたのだ。  それらのことを野球部のみんなに説明すると感心されたのを覚えている。  だがそれはあくまでも力学の分野に限ることで、大きく分ければ高校物理には他に波と電気がある。  力学には興味を示せたものの、他は全くだった。  波の授業が始まると自然と脱落していった。  赤点ギリギリの高屋に先生は何とか興味を持たせようと色々な話をしてくれたのだが一切記憶には残っていなかった。  今では力学の一分野であるはずの単振動や円運動すらも理解出来なくなってしまった。
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