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「チューリップだね。」 奥から発された優しい声にエルは声を掛けた。 「ち?ちゅう?」「え?もしかして、知らないの?」 そう優しい声は言いながらエルのいる場所にやって来た。 「うーん。やっぱり見たことの無いお顔だね。」 そう言うとエルの顔に自分の顔をぐいと近寄せ――にこり、と笑った。 「何でしょう?こちらへ寄られたのには理由があるのでしょう?マリアさん。」 そう言って優しい声を持った彼はエルの背後にあった壁に思い切り左手を打ち付けた。 「父の差し金だということは分かっているのですよ。ほら、どうぞお帰りを。」 そう言って、彼は右手を先程までエルが歩んでいた大通りの方に向けた。 「ほら、早く。」 意味が分からずエルは口を開いた。 「私の名前はっ」 「早く!!」 彼はエルの言葉を遮って言った。 エルもそう言われると返す言葉も見付けられず、とぼとぼとそこを離れて行った。 大通りに戻り、エルは彼のいた場所を振り返ってみた。そうしたら、先程の彼が自分と同じくらいの少女と楽しそうにお話をしていた。 「やっぱり人間で無い私は上手くやっていけないんだわ。」 そう呟くと、また先程歩いていた方向と同じ方へエルは歩いていった。
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