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「ありがとうございます!」 彼は元気に一声した。それに客である小母さんが笑顔で応える。 「アレン君はホントにいい子ねぇ。いつもいつもお母さんのお手伝いして……」 「そ…そんな……そんなこと、ないです。」 「ふふっ!もう…アレン君ったら。」 そう云った小母さんはどこか悲しげだ。 「…エリーさん?」 アレンは首を傾げて言った。 「――あのねぇ、アレン君。いつまでもいい子でいることはとても素晴らしいとは思うけど、それはイコールで幸せなことでも無いし、貴方のお母さんが望んでいることでも無いのよ?それだけは忘れないでね。」 エリーはそう言うと家路を帰って行った。 「ありがとう……エリーさん………」 アレンはそう呟くと深呼吸を一度して仕事を再開しようとした――その時だった。 「アレン!!」 アレンの手伝うまだエリーとの長閑な雰囲気が漂った花屋、『eternal』に冷たく、重々しい声が響く。 「アレン!いつまでこんなことやっているんだ。こんな金にもならない小さな花屋でちゃらちゃら遊びよって。」 丸々と太った男がアレンの方へじりじりと歩み寄って来る。 「……。」 アレンは男をじっと見据えるだけで何も言わない。 「お前には“俺の仕事の跡継ぎ”という立派な仕事があるのだぞ?分かっているのか?」 男は自分の隣にあったチューリップを一本取り――ぐしゃぐしゃに握り潰した。 「!!」 「“俺の息子”が“花屋”……だと?有り得ない…有り得ない…有り得ない……。“俺の息子”なんだ。そんなことに俺はさせない。何がなんでも――」 男はぶつぶつと何か呟いている。 それはアレンの耳に届いているのだろうか。しかし、ただただアレンは男を見据えていた。何の感情もその瞳には無い。 「とっととこんな店畳んで俺ん家に来い。住所は……、住所くらい覚えているだろう?」 その問いにアレンは答えない。像のように固まっている。 その様子に男はフンと鼻を鳴らして店を出ていってしまった。 「分かってる…、分かってるんだ。父さんの気持ちも母さんの気持ちも……。」 アレンはカウンターへ崩れるように座り込んでそう呟いた。 その声は先程までの優しい声とは打って変わって地鳴りの様な声だった。 「僕だってそんな馬鹿じゃない。」
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