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『さぁ…起きて。』 艶めかしい声が「それ」を起こす。 「ふぇ……?」 寝ぼけたように「それ」は答えた。 『さぁ、エル。ここが何処だか分かるかな?』 その声に「それ」はぴくりと動き――そのまま動かなくなってしまった。 「ここは――人間界なのですね。」 その様子に声は面白そうに笑った。 『その通りだ♪君は物分かりがいいのだねぇ、エル。』 「…そして、その「エル」というのは?」 「それ」は不思議そうに小首を傾げた。 『名前、だよ。』 「名前…………。」 「それ」――エルはその美しい顔をしかめた。 『さあ、そんな顔していないで。君は今何を持っている?もう輪だって翼だってないんだよ?人間界で必要なお金も無ければ知人だっていないのだよ。言うなれば親の死んだ赤子と同じだ。』 そして続ける。 『君はそんなで生きていかなければならない。一人の力で、契約を心の隅に置き、人間として、生きていかなければならないんだ。』 エルは――真っ直ぐな瞳を声のする方へ向けていた。 「弁えていますよ、マイコントラクター。上と同じ様に生きてゆきます。」 この上ない程に自信満々なエルに声は一言言った。 『君には期待しているよ。』 エルは街を歩いていた。 先程はああ言ってしまったが、全くをもって自信など無かったのだ。 どうしようもないエルはただただ彷徨うごとく街を歩いていた。「これからどうしよう。」 日差しが傾くばかりでエルのなにもかもが停まっていた。 「あれは………?」 エルの瞳に色取り取りの「何か」が映った。 「あぁ…、綺麗。」 そう口から零して、吸い寄せられるようにその「何か」の元に行ってしまった。
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