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手を握ったのは神奈川であり、立たせようとせずに無理矢理“引きずった”。“数十メートルある扉まで数秒で”。
摩擦で制服が破けてしまわないか、心配になる。
扉を開いた時、声をかけられる。
「ばいばい」女は血の付いた手を振って笑顔で挨拶した。女は恐怖そのもの。
女の声に立ち止まり、気味悪そうに睨んでいた神奈川に、今度は俺が手を引き屋上から退散する。
そのまま扉を勢い良く閉じ、閉じたときの音が轟音としてショッピングモールに響き渡る。
気が抜けた俺は肩から扉に寄りかかり、震える両膝を座らせる。
息が上がり、謎の鳥肌が体を蝕むように全身を覆っていく。
冷静になった今だから、この恐怖が追い打ちをかけた。
「おい、なんだよあれ」
声になっているか分からないくらいの俺の弱気な声に、神奈川は小さな反応した。
「知らないままでいた方がいいよ」
彼女も壁に寄りかかり、俺と極力目を合わさないように努めていた。
良く漫画で聞くような、ありふれた台詞に違和感を覚える。
「なんだよそれ」
だが、俺も追求したりはしなかった。
曖昧な記憶のまま終わってしまうのがいいのだろうか。
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