第一話 死→死後の世界

4/14
前へ
/20ページ
次へ
和人「おい。待てって」 由美「一緒に宿題させてくれるまで、これは没収だよ。じゃあね」  男子である俺よりは足は遅いが、それでも100m14秒というなかなかのスピードを持つ由美は勢いよく走り出しす。 由美「早く取り返さないと、このかばん川に捨てちゃうかもよ」  もちろんそんな気がないことはあの顔を見ればわかる。 和人「おい。待てって」  まるで青春の一ページのような構図だ。 由美「ほら、こっち」  25mくらい向こうのところで笑顔で手を振っている。その笑顔を他の男子に振りまけば今頃、彼氏を持つことくらい簡単にできるだろうに。 由美「ほら遅い。もう行っちゃうよ」  あと15mくらい。ここまで距離ならもう余裕だ。 和人「おい、本当に怒るぞ」 由美「なんかこわいって」  あと10m。2人ともじゃれあいながら。いつも通りの日常を味わっている。  こんな日常がいつまで続くんだろうか。  そんなことを思っていた俺の視界に一台のトラックが見えた。  由美はこっちを向いているから、気がついていない。  というよりトラックの運転手もよそ見をしていて。気がついていない。 和人「おい。バカ後ろっ」 由美「え?」由美まであと5m。ようやくトラックの運転手も由美も気がついたらしい。でももうあの距離じゃ手遅れだ。  トラックと由美の距離はあと1mあるかないか。あと2秒くらいでトラックは由美を轢くだろう。  由美はあまりに突然な出来事に固まっている。 和人「このバカ野郎」  残り30cm弱。  俺が由美を抱きかかえてトラックを回避するほど、トラックとの距離はない。  ついに由美に追いついた。あと一瞬でトラックは俺達を轢くだろう。トラックもブレーキをかけているけど、このスピードはもう致命傷だ。  死にたくないな。  でも…… 和人「じゃあな」  そういって。俺は由美を突き飛ばした。  人生最期の感覚はトラックにはねられた痛みではなく、はねられた俺を見て叫ぶ由美の悲鳴だった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加