9人が本棚に入れています
本棚に追加
和人「おい。待てって」
由美「一緒に宿題させてくれるまで、これは没収だよ。じゃあね」
男子である俺よりは足は遅いが、それでも100m14秒というなかなかのスピードを持つ由美は勢いよく走り出しす。
由美「早く取り返さないと、このかばん川に捨てちゃうかもよ」
もちろんそんな気がないことはあの顔を見ればわかる。
和人「おい。待てって」
まるで青春の一ページのような構図だ。
由美「ほら、こっち」
25mくらい向こうのところで笑顔で手を振っている。その笑顔を他の男子に振りまけば今頃、彼氏を持つことくらい簡単にできるだろうに。
由美「ほら遅い。もう行っちゃうよ」
あと15mくらい。ここまで距離ならもう余裕だ。
和人「おい、本当に怒るぞ」
由美「なんかこわいって」
あと10m。2人ともじゃれあいながら。いつも通りの日常を味わっている。
こんな日常がいつまで続くんだろうか。
そんなことを思っていた俺の視界に一台のトラックが見えた。
由美はこっちを向いているから、気がついていない。
というよりトラックの運転手もよそ見をしていて。気がついていない。
和人「おい。バカ後ろっ」
由美「え?」由美まであと5m。ようやくトラックの運転手も由美も気がついたらしい。でももうあの距離じゃ手遅れだ。
トラックと由美の距離はあと1mあるかないか。あと2秒くらいでトラックは由美を轢くだろう。
由美はあまりに突然な出来事に固まっている。
和人「このバカ野郎」
残り30cm弱。
俺が由美を抱きかかえてトラックを回避するほど、トラックとの距離はない。
ついに由美に追いついた。あと一瞬でトラックは俺達を轢くだろう。トラックもブレーキをかけているけど、このスピードはもう致命傷だ。
死にたくないな。
でも……
和人「じゃあな」
そういって。俺は由美を突き飛ばした。
人生最期の感覚はトラックにはねられた痛みではなく、はねられた俺を見て叫ぶ由美の悲鳴だった。
最初のコメントを投稿しよう!