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「もしもし将希くん?今大丈夫?」
電話の主の声は甲高くてハキハキした花枝の声とは対照的に、少し低くて柔らかかった。
「薫か。大丈夫だよ」
将希はその声を聞いて、一気に自分の顔を緩むのを感じた。
さっきとは裏腹に優しい声で返事ができる。
同じ会社だが違う部署の薫とは三ヶ月前、会社の飲み会で知り合い、付き合うようになっていた。
「良かった。今日はどこに待ち合わせにしましょうか?」
薫は安心した声を出した。
「えーっと、じゃあ仕事が終わったら会社のお茶室で待ち合わせ……いや、やっぱり19時に中目黒駅でどう?」
緩んだ顔をごまかすように、将希はクールに尋ねた。
「わかりました!じゃあ、将希くんに会うのを楽しみにしています(はぁと)」
携帯の向こうに薫の笑みが想像できるような、明るい声。
こいつ可愛いなぁ…将希はさらににやけた。
華やかな美人で自信家の花枝に疲れていた将希には従順で素直な薫は新鮮にうつる。
「おう!じゃあお互い仕事頑張ろうな」
花枝のことは将希の頭からすっかり抜け落ちている。
今日は薫との2か月記念日である。
もちろん浮気であり、今日、花枝とケンカになった原因は薫である。
記念日だから将希は洋食のレストランを予約していた。
将希の頭は薫との甘い甘い世界でいっぱいだ。
……………妄想…………
薫「美味しい!将希くん、ありがとう!!こんな美味しいケーキ食べたことないわ」
「そうか、良かったな。」
「さすが将希くん。素敵なお店を知ってるのね。」
そして夜は…❤❤❤
……………………………
「やっべ、妄想止まんね」
将希は頭を横にガンガン振って妄想を追い出し、仕事の用意を始めた。
野菜ジュースを流し込み、AKBの曲を口ずさみ、歯を磨き髭をそって、AKBの曲を口ずさみ、スーツに着替え、篠田真理子のグラビアに「いってきます」と言ってから家を出た。
彼は今日が素晴らしい日になると信じていた。
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