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「驚きましたね」
「データ大丈夫かしら?」
周りがきゃいきゃいと話している中、将希だけはカタカタと震えていた。
真っ青になりながら、奥に座っている部長のもとに向かい、頭を下げた。
「すみません!体調が悪いので今日は休んでもよろしいでしょうか?」
「五嶋くん!顔色が真っ青じゃないか…病院に行ったほうがいいんじゃないか?」
普段は元気で病欠などしたことがない将希を部長は心配している様子だ。
「はい、今から行ってきます」
「わかった、今日はゆっくり休むように」
もう一度頭をペコリと下げると将希は会社を小走りに出た。
向かう先は伊豆だ。
正直かなり怖かったが、このままだと花枝から呪い殺されそうである。
伊豆まではここから電車で約二時間半。
よしっ
コンビニで栄養ドリンクを買い一気に飲み干すと、将希は電車に乗った。
ふぅ…。
朝のラッシュに比べ空いた車両。座席に座るとなんだかどっと疲れがきた。
横を見ると3歳くらいの幼児を抱いた母親が座っている。
幼児はタオル地のきりんの人形を抱きしめ一生懸命母に話しかけている。
「ママぁ、きりんしゃんにあいにいくんだよねぇ?」
「そうよ、明日ね。パパと一緒に行きましょうね」
「きりんしゃんおっきいかなぁ」
「大きいわねぇーおくびが長ぁ~いのよ」
ふいに幼児と目があい、将希は視線をそらした。
子どもが居合わせる度に笑顔を見せた花枝を思い出したからだ。
あいつに悪いことをしたかもしれない。
花枝と折り合いが悪くなったのは、結婚を暗に迫られてからだった。
将希の家にさりげなくゼクシィを持ち込んだり、買い物に行ったときエンゲージリングを見つめたり…
男の子と女の子どちらがいいかなんて聞いてきたりした。
頭がよく器用な花枝はきっといい母になったと思う。
だけど、将希は尻に敷かれそうだな、と思い、敬遠したのだ。
妻にするなら薫のように従順で、夫を立ててくれる女がいい、と思った。
花枝は…お母さんになりたかったのだろうな…
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