2人が本棚に入れています
本棚に追加
改札をくぐると、紗智が熊に何かを伝えていた。
神妙な面持ちで聞いていた熊が、急にくしゃっと笑って紗智の頭を撫でていた。
あたしの位置からは見えないけど、耳の赤くなった紗智が、恥ずかしそうに悲鳴を上げていた。
そして、熊の右足に蹴りを入れ、痛がっている熊を尻目に改札をくぐってくる。
「な、何?」
「何でもないの!行こ!」
真っ赤になった紗智はホームにずんずん歩いていく。
熊は足を擦りながら、あたしに向かって手を振った。
煙草をくわえながら駅を去る熊は、やっぱり格好良いよなーと見とれてしまった。
ホームに歩いていくと、むすっとした紗智が両腕を胸で組んで待っていた。
「義仁のやつ、ホントむかつく!」
「何?より戻そうとか言われた?」
そうだったらいいな、という期待を込めて、怒る紗智が可愛いからからかってやるつもりだったんだけど。
なかなか紗智から返事はかえってこない。
おかしいな、と思って紗智の顔を見てみると…
最初のコメントを投稿しよう!