2人が本棚に入れています
本棚に追加
「もしもし?ごめん、今大丈夫?」
『あぁ、平気』
熊は少しだけ眠そうな声をしていたが、あたしの話に付き合ってくれるようだ。
「紗智、幸せにしてね」
『わかってるよ。もう泣かせねぇ』
その言葉にほっとし、本題を切り出した。
「ねぇ…もしかして、二人がより戻したきっかけって、朋哉、とか?」
電話の向こうで熊が息をのむのが分かった。
皆があたしに話したくない理由、それはきっと、十九八九朋哉のことだ。
皆に会って、昔のことを思い出したせいか、あたしは朋哉に執着しているようだった。
昔はここまで露骨に隠されたりしなかったのに、何?
皆が朋哉の名前すら出さないようにしている理由は、?
『…葵』
数分の沈黙の後、熊がゆっくりと話し出した。
『さっきの質問、やっぱ思い出して、答えて』
今度はあたしが息をのんだ。
さっきの質問、朋哉がいなくて、残念だったのか、安心したのかーー
「あたしは…朋哉と別れて、ずっと忘れようと必死だった。それでもどこかで朋哉の影は追ってた。でもね、朋哉が全て、なんてそんな大袈裟なこと言わない」
あたしは、自分の喉が熱くなるのを感じた。
鼻の奥がつんとする、涙を、流したいんじゃないの。
「実際、最近はずっと朋哉のこと思い出す日はなかった。…今日だって、もし朋哉がいたら笑って話す自信もあったんだよ?…でも、やっぱり駄目だった、朋哉がいないあの場所は、寂しかった」
残念とか、安心したとか、多分そんな感情じゃなかったの。
あたし、
あたしね、
「トモに、会いたい」
最初のコメントを投稿しよう!