懐古

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ずるい、 ずるいずるいずるい。 自分は彼女がいるくせに、 そんなこと言って、あたしの反応楽しんでるの? 顔が火照る。 嬉しいとか、そういうんじゃない。 切ないの。 彼に動きかけてる、自分の心が止められないの。 「朋哉くん、いつもそういうこと言ってるでしょ?」 「はぁ?言わないよ」 彼は眉間に皺を寄せた。 そのまま歩き出す。そして、とても自然に左手をあたしに向けた。 「…には、」 「え?」 絞り出した声は彼に届かなかった。 振り向いた彼の顔が、暗闇に紛れる。 認めてしまいたい。あたしはこの人に惹かれている。 この手を、自分の右手で掴んでしまいたい。 それでも、 「亜弥子さんには、言うの?」 それでも、この手を取ったら、あたしの負けだ。
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