追憶

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26歳になった。 大学を出てがむしゃらに働いたあたしは、職場でそれなりの信用と信頼を勝ち取っていた。 「おはようございます」 つんとした消毒液の独特の匂い。 毎日のように鼻に入るその香りに、もはや嫌悪感などない。 ステーション内にはまばらに人が座っていた。 「おはよう、早見さん」 中心に座りパソコンを叩いていた師長が、あたしの姿を認めてこちらに向かってくる。 いつも物腰が柔らかく、部下からも尊敬される彼女だが、怒らせると鬼よりも怖い、らしい。 そんな師長直々に話しかけられ、少し背筋が伸びるのを感じた。 「この間言ってた来週のお休み、調整つきましたよ」 「来週…あぁ!ありがとうございます」 そう、来週。無理を言ってでもお休みをいただきたかったんだ。 大学時代のサークルの同窓会があるから。
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