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「――っ!!」
そこにいたのは柄の悪そうな人を無表情なままに蹴り飛ばしている春陽だった。
階段の縁に隠れて向こうから僕は見えないのだと思う。横たわる同じ制服を着た男の子の腹に何度も何度も爪先を減り込ませている。
目が離せなかった。恐怖で固まってしまっていたのもあると思う。けど、暴力を振るう春陽に現実感が全く沸かなかったのだ。いくら見つめても脳が理解しなかった。
「おい、何やってんだ」
後ろに人が居たのなんて気付かなかった。声を掛けられて初めて、しまった!と思った。
春陽も流石にこちらに気付いたようでヒタヒタと足音が近づいてきた。
肩を掴もうとした男の手をなんとか避けて僕は必死になって階段を駆け降りた。
「あっ!おい、コラ!!」
怖い怒鳴り声が聞こえたけど後ろなんか振り向くか!
そのまませっせと廊下を走り抜けて自分の教室まで戻った。誰も追い掛けてはこなかったようだ。
かけっこには自信があるんだぜ。
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