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右のポケットは既にパンパンで、僕は中身を零さないようにゆっくりと底に沈んだ携帯電話を取り出した。
特に何をするでもない。ただ、時間を確認したくなっただけだ。
開いた画面に映る無機質な白い画面に申し訳程度に見える数字を読み取る。ヒトキュー、サンマル。
いつの間にか時刻は19時30分になっていた。確か学校を出たのは17時を少し過ぎたころだ、宛もなくさ迷っている間にもうそんなに時間が経ったのか。
制服のズボンは右側だけが盛り上がっている。僕は右利きだからよく取り出すものは全て右ポケットに収納されるのだ。
そしてパンパンになったポケットからは信号を渡ろうと走りだした途端、たちまちに僕の元から離れ地面に急直下する。
ほら、例えば今みたいに。
「君はいつもなにかしら落としていくね」
落下した飴玉や自転車の鍵を拾おうと道路を振り返れば掌にそれらを乗せてこちらに差し出す幼なじみ兼クラスメイトの男がいた。
一瞬の間に全てを拾いあげた彼の瞬発力が素晴らしかったのか、それとも僕が何をどこに落とすのか彼にはお見通しだったということか。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「信号、変わってしまったね」
「そんなのは次を待てばいい」
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