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受け渡された細々とした私物を再び右のポケットに詰める。先程より納まりが悪いようで自転車の鍵につけたキーホルダーが入りきらないでいる。
それでも無理矢理に押し込めようとする僕を見て彼は小さく笑った。
「反対側にも入れればいいのに」
「それだと取り出しにくいじゃないか」
「今でも充分取り出しにくいと思うけど」
「うん、それもそうだね」
僕がポケットから手を離すと今度は彼が僕のポケットに手を突っ込んだ。いきなりなんだろう、と目を瞬かせていると中身の半分程を握りこんで自分の左のポケットにつっこんでしまった。
再び僕が目をパチパチさせていると信号が青に変わり、彼に右手をひかれた。
「僕のポケットを貸してあげる」
「え?」
「君の右隣りに僕が居れば問題ないでしょ?」
「‥うん、とてもいいアイディアだ」
信号はまだ青のままに渡り終えて、僕は軽くなったポケットの分弾むように足を前に出した。
僕らはまだ手をつないだまま。彼はまだ笑顔を浮かべたままだ。
何故だかくすぐったいようなむず痒いような感覚が僕のなかにあって、それがなんなのか僕には分からないけれど彼はそれがなんなのかを知っている気がする。
. - END -
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