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あの説明文には場所はおろか、詳しい内容すらも書かれていなかった。どうせ移動中は話すこともないためだろう。悠一が大和に聞いた。
「七つ目ってどんな内容なんですか?」
「ああ、あれは、二年前に実際に起きた事件が元になっているんですよ」
不謹慎なことをするものだ。だがそんなことを口にするでもなく、悠一は黙って話を聞いた。
「この学校に、中山俊喜(なかやまとしき)という生徒がいました。確か彼は当時三年生で、所属は二組でした。彼は友達がおらず、パソコンや携帯に向かってばかりでした。いつしか彼はいじめられるようになり、友達がいなかったために誰にもかばってもらえず、最後には屋上から飛び降りたんです」
話の真偽について考えているのか、それとも境遇に同情でもしているのか。そのどちらの為かはわからないが、悠一の表情が少し曇る。
「それからというもの、夜の屋上に現れるそうです。そしてそこで会ってしまうと……」
大和が結末を濁して微かに笑う。しかしその足取りに淀みは無く、着実に屋上へと向かう。
「さあ、着きました。中山俊喜が飛び降りた、屋上です」
大和が扉を開け、悠一が屋上に出るのを促す。明かりのほとんどない屋上は普段からは想像もつかないくらいに暗い。ドアの向こうがどこか別の世界に繋がっているかのように錯覚してしまう。
悠一は恐る恐るフェンスまで歩き、そっとそれに手を触れる。張り巡らされたフェンスはそれほど高くない。乗り越えるのも大変ではない程度だ。
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