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「そんなもんは自分で考えろ!!」
青年の初めての怒鳴り声は崩れ落ちた壁の向こうへと跳びだした。
その崩れる壁を睨みつけながらも青年は少年に何かを投げた。
崩れた壁の向こうから現れたのは、見たこともない見上げるほどの巨大な犬。
その大きな目が壁の割れ目ごしに彼らを見つめていた。
それにくぎ付けになりながらも少年は投げられたものを両手でつかみ、視線を落とした。
それは青い星の形をしたものだった。
「それがお前がここからお前の現実に帰る道具だ。」
「どうやって使うんですか?」
「強く握りこんで戻りたいと願え。それで終わりだ。」
少年は言われた通りその星を握りこむが目もとじず、迷いの色を宿したまま青年を見た。
「何してる!? 早く行け!!」
「……だけど、一人残していくなんて。」
「お前にはしなくてはならないことがあるだろ!!」
青年は叫びながら腰に差した剣を抜いた。
「頼む!! この現実をお前の言う夢に変えてくれ!!」
バゴン
壁を貫いて迫ってくる鋭い牙をその剣で受け止めた。派手な火花が周囲に反射されながら飛び散っていく。
じりじりと押されながら鍔迫り合いを繰り広げる青年。だが、その顔には獰猛な笑みが浮んでいた。
「またお前と会えるなんて、な!! 」
明らかに自分より重量のあるそれを弾き返し、青年は駆けだした。
大きく仰け反る巨大犬の前足をスパっと音が聞こえそうなほどきれいに切り落とし、後ろへ跳んだ青年は、未だ固まり続ける少年を後押しするように大声を出した。
「頼む、この幻想を終わらせてくれ!!『じいちゃん』!!」
その言葉を、そのたった一言を聞いた瞬間、少年は自然に星を強く握り締めていた。
そこからのことを少年はよく覚えていない。
気付いたら自分の部屋のベッドの上に寝転がっていた。
「ふう。」
茜色に染まる空を見上げ、少年はため息をついた。
あれは現実だったのか、夢だったのか。それを確かめる手段はない。
だが、最後に意識が失われる直前、青年が笑っていたのを彼は見ていた。それにどんな意味があったのか、少年には興味がなかったが。
「ああ。やってやるよ。」
代わりに彼の中に芽生えていたのは『決意』。
何をどうすればいいのかはまだ分からない。だが、少年の中で何かが変わっていた。
未来を必死に生きる『彼』のために、少年は小さいが大きい、そんな一歩を踏み出した。
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