4/6
前へ
/6ページ
次へ
「君の思う夢が現実で現実が夢かもしれない。」 「……そんな哲学的な答えは求めていないんですが?」 「この考えが重要なんだよ。この世界を伝えるにはな。」  ニヤリと笑って見せる青年は手元のリモコンのボタンをその部屋の壁に向けて押した。  すると何もなかったはずの壁にどこからともなく映像が投射された。 「ここは、君の言う『現実』から五十年後の世界だ。」 「へ?」  いきなり告げられた内容に頭がついていかず、少年は頭を掻いた。 「ここは確かに君にとっては夢でしかない。だけど、俺にとっては現実でしかない。」  青年から与えられる情報を整理し、脳をフル回転させた少年はその結論を口にした。 「えっと、つまり僕は夢の中でタイムスリップしたと?」 「簡単に言えばそういうことだ。」  満足げに頷く青年の前で少年の顔色は優れなかった。 「じゃ、じゃあ、どうやって僕は現実にもどればいいんですか?」 「……」  急に黙り込む青年の顔を少年は覗き込むが背けられ、仕方なく背もたれに身を預けた。 「すまないな、俺が呼んだばかりに……」 「いえ、もういい……呼んだ?」  ぼそりと告げられた謝罪にそう反射的に答えようとした少年は口を閉じた。 「あ、」 「呼んだって、まさかあなたが俺を連れてきたんですか?」 「う、いや、」 「どうなんですか?」  じりじり詰め寄ってくる少年に冷や汗を垂れ流していた青年は覚悟を決めたのか淡々と語りだした。 「ここに来るまで誰にも会わなかったのは気付いているか?」  その問いに無言でうなずく。 「それは偶然じゃない。この建物には俺しかいないんだ。」  ある意味予想通りの言葉に少年は何も反応せずただ無言で先を促した。 「いや、この建物だけじゃない。もうこの国には、世界には、俺しかいないんだ。」  重い沈黙が部屋を、世界を覆っていく。  二人の心境は複雑だった。  青年は過去に起こった悲しい現実に思いをはせ、少年はこの悲しい『未来』という現実を受け止めきれないでいる。 「なら、」 そんな沈黙を破ったのは少年の方だった。 「なら、僕を呼んだのは一人がさびしいから?」 「いや違う。」  即座に否定した青年はまたリモコンを操作した。  そこで画面に表示されたのは少年にとって見慣れた地球の姿があった。 「君に、この『未来の』現状を知ってほしかった。それだけだ。」  そう告げながら青年はさらにリモコンを操作していく。  
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加