現実世界 1 ある日の夜

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「ありがとうございました」 患者は私の方に深々とお礼をしてくれた。私も同じ位深く礼儀をした。 「段々良くなっていきますね。始めて来た時より見間違える程ですよ。」 顔を上げて、にっこりと私は笑顔を作った。患者はほっとした様な顔を出し、そして笑顔になる。この瞬間が私の生きがいの一つといえる。ちょっとしたスマイルジャンキーかもしれないが、それでも私は嬉しい。 カルテに今日の出来事と結果を書いてファイルに入れる。 「それではまた来週に来てください。このままいけば、次が最後になるかもしれませんよ。佐藤さん頑張ってください。」 「本当ですか?先生ともう会えなくなると寂しくなりますね」 佐藤はテーブルに置いてあるコーヒーを一口飲み、落ち着いて話す。私は笑顔のまま、対応した。 「ダメですよ。治療してまた新しい生活を作るんですから。本当は病院には来ないほうが良いんですよ」 苦笑しながら佐藤は立ち上がり、黒いロングスカートが揺れた。そして出口の前に立ち、私の方に身体を向けた。 「それではまた来週よろしくおねがいします。」 「はい。お大事に」 佐藤が診察室から出るのを見送りをして、私は扉を閉めた。周りを確認しながら、隣の部屋に行く。
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