2人が本棚に入れています
本棚に追加
気が付くと俺は暗闇が広がる空間の中にいた。
上下左右、四方八方どこを見てもただ、黒色が続くのみ。
キョロキョロと辺りを見回すが、別段代わり映えしない風景に俺は半ば、呆れたようにため息を吐く。
何故なら、俺はこの無限に広がる空間を知っているからだ。
「はあ……またこれか……いい加減にしてくれ」
「釣れないじゃねぇかよぉ?なあ……焔(ほむら)よぉ」
いつものように毒づく俺に対して、投げ掛けられる声。その声の主に向き直る。
「黙れ!いつもいつも俺にちょっかい出しやがって!」
「……へへへ」
憤慨する俺を、まるでいなすかのように薄ら笑いを浮かべるソイツ。
黒い空間の中にボンヤリと浮かんでいるそいつの姿は、中々言い表し辛いんだけど。
そうだなぁ。昔話に出てくる鬼?まあそんな感じだ。背丈は俺とあまり変わらず、額からは二本の角が天高く突き出している。
燃え盛る炎のような長髪。ボロボロになった藤色の甲冑を纏っている辺りから察するに、平安とかその辺の化物なのか?
まあ、めんどくさいから鬼でいいか。
んで、その鬼はあいかわらずの薄ら笑いで俺を見詰めていやがる。いつも思うけど、その真っ赤な瞳に睨まれると背筋に冷たいものが走る。
「……はあ……まあいいや。んで?一体何なんだよ、おまえは!」
「俺か?俺は……おまえだよ……焔」
「……は?俺?なんで俺がおまえみたいな化物と一緒にされなきゃいけないんだよ!?」
「直にわかるさ……」
「おい!ちょっと、待てよ!おい!こら!!」
そしていつものように同じ会話を繰り返していく。 あの鬼が俺?
いつもその言葉だけを残して、ソイツは消えていくんだ。まるで背後の暗闇に吸い込まれていくようにさ。そして決まって俺の視界は真っ白になっていくんだ。眩しいほどに真っ白に。
最初のコメントを投稿しよう!