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「な、なんで私が落ち込むのよ」
とっさにそう言ってみたものの、ショックだったのも確かだし、その理由もバレているんだろう。
「まあいいや。元気出たみたいだし」
私は何か言おうとしたけど、言葉を見つけられないまま観覧車は1周してしまった。
「そろそろ帰ろっか」
「……うん」
なぜだろう。
今は優しく笑う横顔も、自然に握られた右手の温もりも、嫌じゃなかった。
それは遠山奏音の笑顔に時々紛れ込む影のような表情のせいかもしれない。
――結局どうしてそんな顔をしたのか、この時はまだ聞けなかった。
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