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立ち止まってはいるけど、こちらは振り向かない。
「……涼音のためだとか言って、ホントは自分のためだった」
「何言って――」
急に振り返ったその表情――その切なくなるような笑顔に私の言葉は途切れる。
「俺が涼音に一緒にいて欲しかっただけなんだ」
どういうことかと聞く暇もなく、彼はドアの奥に消える。
「……ちょっと、何なのよ」
私の独り言は夜の闇に吸い込まれてしまって、どこにも届かなかった。
モヤモヤした気持ちは行き先を失って、目を閉じると何度もあの表情が浮かんでは消えた。
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