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エヴァルはアリウを抱えてラシナムを抜け出すことができた。
二人がやってきたのはごく普通の世界。魔術や戦闘などがなく、とても平和な世界。
ラシナムでは一般的に“人間界(ブラントル)”と呼ばれている。
エヴァルは誰も住んでいない一軒家を見つけ、そこを住居に決めた。
「さて、家も見つけた事ですし、あなたの名前はアリウですよね?」
エヴァルは推測でアリウをアリウと認識しただけで、本当に名前がアリウかどうかはいまいちのところだった。
アリウは怯えながら自分の名前を呟いた。
「……僕の……名前は…」
自分の名前を聞こえないくらいの声で呟き、鼻水をすすり涙を拭く。
「分かりました…私はあなたを大きくなるまでおつかえします。あなたの執事になります。」
「??」
訳が分からないと言ったような顔をするアリウにエヴァルは優しく微笑みかけた。
「大丈夫ですよ。私はあなたを殺しませんし、昔は執事の仕事をしていたので、何も心配は要りません。普通の親になれという方が大変なんで……分かりましたか?」
「う、うん…………」
少し口ごもっていたが、エヴァルはそんなことは気にしていない様子で、アリウに顔を近づた。
「つらいのは分かりますが、いつまでもそのままでは楽しくありません。…………記憶、消しちゃいましょうか」
「えっ……?」
「あ、折角ですし、私もの消しておきましょう」
まったくエヴァルの意図が分からないアリウはただ唖然としていた。
そしてまだ幼い頭ながらに考えてしまった。
――この人は昔の記憶が無いんだと。
一人だけ戦争の記憶を残して過去で孤独になるのがつらいのだろうと、
そして彼は自分の―――――
涙が1滴、アリウの頬から落ちる。
涙の跡が微かに残る目の下も、気付けばすっかり無くなっていた。
彼らの忌まわしい記憶は思い出す事は無かった。
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