ライフ

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 家の中に入り、一番に目についたのは布団に仰向けで寝ながら荒い息をしているお腹の大きな人と、その人を取り囲む男の人とお婆さんと小さな女の子だ。  産湯や手ぬぐいが用意されている事から察して、どうやらお産の途中のようだ。  男の人……恐らく旦那さんだろう、妊婦さんを励まして、その手を優しく握っている。小さな女の子も心配しているのか不安そうな顔をしている。  そしてお婆さん――産婆さんは、真剣な顔をして妊婦さんの汗を拭きながら、大きなお腹と母親となる女性の顔を交互に見ている。  僕が部屋の、高さ的に真ん中まで降りてきた頃に新しい命の産声があがった。その声はなんだか歌詞もメロディーもない歌のように聞こえた。  部屋中に張り詰めていた緊張が一気に消え去った。  力が抜けたように床に両手をつき顔をくしゃくしゃにして喜ぶ父親、同じく喜びながら生まれたばかりの男の子を優しく丁寧に拭いて洗っていく産婆、新しい弟を興味深そうに見つめる少女、そして自分から生まれた命を愛しそうに抱きかかえながら微笑む母親。  これが夢なのか、現実に起きた事を僕の意識だけが見ているのか。どっちかはわからないが、命が舞い降りた瞬間を見る事ができた。ただ傍観していただけなのだが僕にもこの家族の喜びが伝わった。  そして自分の足に何かが当たったのを感じて下を見る。床に足の小指が触れていた。  屋根はすり抜けたのに変なのと思いながらも両足で床に立つ。  その瞬間、急に目の前の景色が歪み足がふらついた。僕の目がおかしい訳ではなく僕の周りの空間がまるでワープでもしてるかのように高速で移動している。
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