タウン

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 少女はそれに気づくこともなく、もう声も枯れ果てているのだろう、潰れたような声でやっと母親を呼んでいる。  兵士は降り注ぐ火の粉の中を、なんの感情もなさそうに歩いている。  僕はその二人を黙って見ているしかできなかった。もし、声が届いたとしても僕に何ができただろうか。  兵士はそのガラガラの声の少女の肩を優しく叩く。それに気づいた少女は兵士の方を見上げ、真っ赤に腫れた目を向けた。  僕には兵士と少女の目が合った、その瞬間が永遠に続くと思った。違う、むしろ時間が、僕の思考が、彼らの視線がぶつかった瞬間に動くのをやめたようだ。  この街はどこなんだ、この夢の意味はなんだ、この兵士の存在は――夢の中の全ての疑問が一気に僕の頭に湧き上がってきた。
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