里帰り

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「布団や服を取りに来たの?」 「ハハハ!三十年も経ったらもうボロボロになっとるわ」 笑う父親の横で少年が更に視線を上げると、少年の家の玄関にも付いている、中が見える機械が突き出ている。 「まだ電気通ってんのか?流石に無いか」 少年が思考するより先に父親が、その透明の機械を見て言う。 電気なんかどうでも良い。機械への好奇心が薄れた少年は、廃屋の周囲を見渡した。 「ユズル。俺は親戚のとこに行って来るけど、しばらくこれ見とくか?」 これ とは廃屋の事だろう。既に自動車の側にいた父親の声に「うん」とだけ答えて、少年は振り返った。 「あんまり遠くに行くなよー」 父親が乗り込んだ自動車は、全力で走っても絶対に追い付けない速度で少年から離れていく。 赤い自動車が見えなくなるのを待たず、引き続き廃屋を上から下まで観察する少年の視界に、柔らかい黒が舞い降りた。 少年にはそれが何なのか一瞬分からなかったが、すぐに黒い蝶々だと気付く。 「からすあげは?」 少年にカラスアゲハと呼ばれた黒い蝶々は、女性の髪に負けない柔らかさの黒を優雅に揺らして、一際高く伸びた草に止まった。 少年が虫取り少年だった頃はカラスアゲハは捕獲目標として最優先されていたが、今は網も籠も持っていない。 今まで見た中でも比較的小さなカラスアゲハに少年は、ちょっと触れただけで崩れてしまいそうな儚さを感じた。 少年が見とれていると、湿気を含んだ暖かい風が吹き、柔らかい黒が舞い上がる。 「あっ」 風に乗った黒は無駄に飛び回る事をせず、小さい羽を動かしながら廃屋の裏へと消えていった。 久々に見た黒い蝶々に少年は気品さえ感じたが、早くも次の興味を探して足を上げる。 だが、上げた右足の靴のつまさきに何かがくっついていた。 少年は右足を上げたまま、靴を脱いで手に取る。靴の先端にくっついているのは――
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