あの頃の話をしようか

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『麻衣ちゃんが欲しい』 花いちもんめをすると、絶対にあいつが指名するのは私だった。 その意味は分からなかったけど、私は単純に嬉しかった。 繋いだ手があったかくて、まるで離さないと言われてるかのようにぎゅっと握られて。 私はこの手が大好きだった。 それを恋なのだと自覚したのはいつ頃だったか。 「あの子じゃ分からん」 ふと花いちもんめのワンフレーズが浮かんできて、無意識のうちに口ずさんでいた。 ……ああ、そうか。 あいつが急に私を避けだした時からだ。 昨日までは花いちもんめをして、手を繋いでくれて、麻衣ちゃんって私を呼んでくれていたのに。 次の日になればどうだ。 私の誘いには乗ってくれず、花いちもんめをしてくれない。私を伊藤と呼びはじめた。 それが酷く悲しくて、胸に風穴が空いてしまったのでは?と疑うほどに胸は苦しく痛み、とてつもない孤独感に襲われた。 多分それが恋なのだと自覚する一歩目だった。
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