鞭打ち人への道

2/17
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
     ※鞭(ムチと読む)  鞭打ち人になるのが夢だった。  そしてこのほど、薄皮一枚にも満たないわずかな隙間から、私は自らを鞭打ち人へと至らしめる為の巧妙な抜け道を見つけ出した。  今はまだ机上の空論に過ぎないその抜け道を、いかにして実相としての抜け道にまで育て上げるか否か、そこが問題だ。料理の仕方いかんによっては鞭打ち人への扉が開かれるかもしれないのだ。そう考えると私は目眩すら覚える。まさかこの私が夢にまで見た鞭打ち人になれようとは、信じられないな嬉しいな。降ってわいたようにチャンスが転がり込んできた。  さて、その抜け道と言うのは、鞭打ち人の選出に先だって開かれる「鞭打ち人・選考委員会」にまつわるちょっとした風聞、その風聞を巧みに利用した抜け道のことを指している。それは「鞭打ち人・選考委員会」の内部に巣くうガン細胞、あるいは委員会が抱える爆弾、または小さな綻びと言い換えてもいいかもしれない。  もしも、もしもだ、「鞭打ち人・選考委員会」内部の人間に、もしも金に困り果て、首の回らない人物がいたとしたら。そして、その人物からすれば喉から手が出るほどの大金を、もしも私が涼しい顔で所有しているとしたら。はたしてその状況を都合よく利用することがそれほど邪悪なことだろうか。それが罪だと言えるだろうか。たとえそれが、ふらっと立ち寄った場末のバーでちらっと小耳に挟んだだけの、うさんくさい酔っ払いが吐く、根も葉もない噂話に過ぎなかったとしてもだ。  私にはそんな酔っ払いの与太話でさえ、頭からすっかり無視してしまうことができない。なぜなら私は鞭打ち人になりたいと本当に腹の底から願う者であり、そんなワラにもすがる心境の私にとっては、どんな些細な情報も皆平等に貴重なものだからだ。思いもよらない情報が思いもよらない場面で役に立つかもしれないし、期せずして「この情報、知ってて良かったな~」なんていう場面に出くわすかもしれない。私のような切羽詰まった人間には、一つたりとてぞんざいに扱っていい情報などありえないのだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!