鞭打ち人への道

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     とはいえ、委員会の議事録に名を連ねるほどの人物が金に事欠くとは、やはり些か信憑性を欠いた話ではある。何しろ相手は天下の鞭打ち人・選考委員なのだ。彼らクラスになれば、平均的サラリーマンのはるか上をいく給金が国から支給されているのは疑いようもない。つまり、彼らが金に困っているというあの酔っ払いの指摘がガセである可能性は非常に高い。  それでもなにかしら直感めいたものの交通誘導により、私はその「鞭打ち人選考委員会内部の人間に破産寸前の人間が混じっている」という黒い噂をあえて信用してみることにした。  そして、事の真相を追った。  まず最初に結論から言ってしまえば、その人物は現実に存在した。しかも噂通り、それなりの地位に納まったひとかどの人物だった。そして事実、金に困っていた。  しかも調べが進むにつれ、生活に困窮しているのが彼一人だけではなく、ほかにも似たような複製が委員会の中に二名も隠れているという新たな事実まで浮上してきた。私はそのネタを是非とも鞭打ち人への突発口にすべく、ほどなく彼ら“金のない有力な人物たち”にコンタクトをとってみた。  彼らにわたりをつけ、そして勝ち組におなじみの自己陶酔的な警戒心を解きほぐすのは相当な骨折りになるのでは、と思われたが、しかし用向きが他でもない株にまつわる案件ともなれば話は別だった。なぜなら、彼らは株に対してひとかたならぬ私怨を抱いていたからだ。  三名が三名とも、それぞれ株で身を持ち崩していた。そしてめいめい、揃いも揃って株を憎んでいた。なんの罪もない株を彼らは身勝手にも逆恨みするような連中だった。株を憎むという筋違いな精神を自らの支配的な思想へと押し上げることで、本来なら真っ先に問われるべき“資産運用に於ける自らの判断ミス”ないし“投資家としてのそもそもの適性”という問題に煙幕をかけていた。  彼らは自らの頭を株に対する憎悪で一杯に満たし、そうすることで“間違ったのはどっちだ?”と、うるさく訴えかけてくる心の中の警察から逃げ回っていた。
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