鞭打ち人への道

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     また、彼らは家族の前などではもっぱら平静を装い、これからの生活を悲観する細君などに対しては「大丈夫、すぐに立て直せる。始めから株になんて手を出すんじゃなかった。でももう大丈夫。株のことは忘れよう。株はもう沢山だ。だから安心して。ただでさえ僕の給料はそこいらの一般人とは比べ物にならないんだ。だから二度と株にさえ構わなければ、あっという間に元の生活に戻れるさ。ねえ、ここで一つ提案があるんだけど、聞いてくれる?それは、しばらくの間だけ気分転換のつもりで切り詰めた生活とやらを楽しんでみる気はないかという提案なんだ。今まで僕らの生活におよそ縁のなかった切り詰めた生活とやらを、これを期につまみ食いのつもりで楽しんでみるってわけだ。ちょっとワクワクしてこないか?」  などと、いかにも光明ありげな青写真(明るい家族計画)を提案して安心させた。以上のように、彼らは家族の前などではことさら“株にはもうこりごり”というポーズを決め込んではいたものの、そのくせあたかも雄伏に沈みつつ好機の到来を待つ勇者よろしく、内心では株に対する復讐の熾火を虎視眈々とくすぶらせていた。  私はそんな無意識の隙を突く。彼らに電話を掛け、儲け話を持ちかけた。 ――近々、私の周りでちょっとしたインサイダー取り引きが行われます。それはとっくに満腹中枢の壊れた財界人たちによる、内輪だけでの祭りごと。過度な贅沢だけではもう物足りなくなってしまった金持ちたちによる、株式市場を使った水戸黄門です。要するに早い話が出来レース。ある株式銘柄について、例えば何月何日の何時何分に助さん角さんがやってきて株が下落する、そしてまた別の日の何時何分に、今度はいよいよ真打ち水戸黄門が現れて印籠をかざし、そこで一気に株が暴落して終わる。その銘柄がいつ“一巻の終わり”になるかということを、ある数十人の財界人たちと私のような幾人かの出資者だけは事前に知っています。事前に知っている、ということが一体何を意味しているのか、どのようなメリットがあるのか。それは簡単。
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