鞭打ち人への道

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   我々だけが絶妙のタイミングで株を売り抜けてしまえるという優位性を示しています。その売り抜いた際の身入りを、先に申し上げた数十人の財界人たちと私のような幾ばくかの出資者たちだけで仲良く分け合うわけです。問題は、その売り抜いた際の利鞘についてです。元々の掛け金が高ければ高いだけ株式としての露出が増え、名が売れます。それにともなって市場価値も高まってきます。そうなると必然、個人投資家はこの伸び盛りの有望株を買いに走ります。統計的な市場原理の傾向として、いわゆる“買い一色”というムーブメントが市場において引き起こされる可能性が高くなってくるわけです。それはまるで得体の知れない霧のように、あるいは春のトレンドをめぐる流行のように、どこからともなく立ち顕れてきます。ここが肝心なのです。どこまで個人投資家というカモを焚き付け、煽り、どのあたりまでレートを吊り上げることができるか、それが、こちらサイド――いわゆる仕手側と呼んだほうがあなたにもピンときやすいでしょう――仕手側の準備金の大小に比例してくるわけです。かような理由から、われわれ仕手側は近近に、より多くの準備金を入り用としているわけです。このたび些少ながらこのような電話を差し上げたいきさつは、あなたが他でもない鞭打ち人・選考委員会に一席を占めるほどの有力な人物であり、またその一方で、非常に優れた個人投資家としての一面もお持ちだという情報を、ある筋を通じて知り得たことに端緒をみます。単刀直入に言いましょう。このたびの案件、是非あなたも一口のってはみませんか?急な申し出であることは百も承知です。さぞや困惑されていることでしょう。心中お察し致します。人によっては、いきなりそんなこと言われても急においそれと現金の都合なんかつかないよ、と訴え出る参加者様もいらっしゃいます。至極もっともな訴えです。そういう場合には、代わりに銀行口座ないし個人名義を貸していただくだけでも結構です。それだけでも我々は随分と助かります。心配するには当たりません。あくまでもこれは内々での出来レース。まかり間違っても“もしもの可能性”などございません。もちろん念のため元金は保証させていただきますし、ついては念書さえ用意しましょう。いわゆる元本保証の
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