鞭打ち人への道

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  投資信託みたいなものだと思って下さって結構です。立派な人物にだけこうして順番に電話を掛けさせていただいています。誰でも彼でもというアレではありません。社会的に信用度が高く、かつ株式に通じた人物にだけこうしてこっそりと耳寄りの情報を横流ししています。もし不都合がおありなら聞かなかったことにしてください。なければどうぞ、我々の計画に一枚かんでみませんか。まぁ電話口でこんな話もなんでしょうから、後日しかるべき一席を設けます。詳しい話はそのときにでも――という口上を垂れるやいなや、彼らはうまうまと話に乗ってきた。  それからほどを経ずして、私は約束通り(勉強会と称した)一席をもうけ、彼らをとある料亭に招待した。決戦の金曜日である。  三人は“不意に呼び出されて困惑している人物”という雰囲気を入念に装いながら料亭に顔を出した。そしてまた、これには少々驚いたことに、彼らはなんと「はじめまして」と互いに挨拶を交わし合った。同じ鞭打ち人・選考委員同士でありながら、どうやら顔みしりではなかったようだ。彼らは覆面でもかぶって委員会に臨むのだろうか。その部分は永遠の謎だったが、私もあえて三人ともが同じ鞭打ち人・選考委員同士であることは伏せておくことにした。  もっとも、話の流れから“おぉ、あんたも鞭打ち人・選考委員だったのか!聞いてみるものだな!”みたいな流れになるかもしれない、とも思ったが、しかし実際そんな状況には立ち至らなかった。というのも、三人は首尾一貫して自らの素性を濁していたからだ。  そのかわり、自らが人後に落ちぬ多忙な身の上であり、その多忙さの一つ一つが輝かしい何らかの一大プロジェクトにコミットメントしているがゆえの意義深い多忙さであるという尊大な含みを、言葉の端々に滲ませていた。  彼らの尊大な態度の中には、まかり間違っても自分が“一大プロジェクトに参与できたくらいで有頂天になっている小人物”などでは断じてなく、それどころか“一大プロジェクトに参与できたくらいで有頂天になっている小人物たちをどちらかというと管理監督する立場にある人物なんだ俺は”という、いかにも自慢気で、やや釘を刺すような含みすらそこには感じられた。階級社会につきものの、つまらない牽制球である。
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