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「人里に謎のヒーロー出現! 瀕死の少年を一瞬のうちに蘇生させた謎の少女の正体は!? ……いかにも天狗が食いつきそうなネタが舞い降りたものね」
博麗神社にその号外が投げ込まれたのは、事の翌日のことであった。
日当たりの良い神社裏庭……今日も幻想郷は平和である。博麗神社の巫女、博麗霊夢は、縁側でくつろぎながら、その新聞片手に静かに呟く。
「っていうか、女ならヒロインよね」
どうでもいい。そう、別にこんな記事は、彼女にとってはどうでもいいことだ。
(瀕死の子供を一瞬で……治癒を使う程度の人間か、はたまた妖怪?)
緑茶の温さを楽しみながら、彼女はぼんやり考える。考えながらも、何かしようとは思わない。
別に知らないのが一人増えたところで、何かをする必要はないからだ。
こんなにも暖かく、こんなにも空気が澄んでいる朝に、巫女の勘が働くわけがない。最も、霊夢自身がただ単にお茶を楽しみたいだけなのだが。
異変が起きたならば、いつものように動けばいい。そう、いつものように。
最も重要なのは、何事にも揺れないことなのだから。
「それに天狗の新聞なんて、真に受けるだけ損損……と」
調度湯呑みの底が見えた。いつもの調子だ。今日もいつものように、境内の落ち葉から片付けよう。
軽い足取りで縁側から降り、竹箒を手に取る。目覚めてからは結構陽が昇っている気がするのだが、こんな天気のせいか、まだ若干眠い。
こんな時は、軽く伸びをするに限る。
「さて、今日も一日平和――」
「霊夢うぅぅあぁぁあ!!」
ズンッ
「で!?」
突如、霊夢の腹に重い衝撃。腹にめり込んだのは、頭。
頭の主は……衝撃の割には軽い奴だった。
「チ……ルノォ……あんたねえ……!」
奇麗にみぞおちに入ったらしい。怒りの声を上げるも、霊夢は半分目が死んでいた。
とりあえず、今日は「いつもの」を見事にぶち壊した、この氷精を退治することから始めよう。
そう決め、氷精チルノを睨みつけたが……。
「うっ、えぐ……」
何故か泣いている。どうやら泣きながらここまで飛んできたようだ。
「……何があったのよ」
どうやら今日は、どう足掻いても「いつもの」朝にはならないらしい。
霊夢は小さくため息を吐いた。
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