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「さて、入ってみたはいいものの……」
霊夢は辺りを見回すが、妖怪の森は広い。小さな人影一つを目視だけで探るのは、はっきり言ってあまり頭のいい選択とは言えない。
「別に何も感じないし、どっかで別の誰かとドンパチやってくれたら楽なんだけどね」
「やめてよね。この辺りは夜行性の蟲達がまだ眠ってるんだから」
「別にあんたのちっさいお友達の安眠妨害に、罪悪感は必要ないわ」
頬を膨らますリグルを、霊夢はばっさりと切り捨てる。
「すっごい羽ばたくよ?」
「何がよ!?」
とりあえず、この辺りで弾幕勝負は控えたほうがいいらしい。衛生的にも、精神的にも。
しかし歩けど歩けど、何も見当たらない。
「霊夢!」
突然、チルノが声を上げる。
「何かいた?」
「飽きた!」
ごすんっ
一際大きな音が、無音の森に響いた。
「ふおおぉぉ……!?」
「あんたのためにわざわざ出向いてんでしょが!」
頭を抱えるチルノをよそに、さすがに少し苛立ってくる。
と、霊夢の目が、何かを捕らえた。
(人影!)
思ったよりは早く見つかった。しかし安堵をするよりも早く、霊夢は溜息を吐く。
「……なんだ夜雀か」
「うー……今日は閉店だわー……」
こちらに気付かずにぶつくさ呟きと歩いていたのは、夜雀の怪、ミスティア・ローレライ。屋台車を引いているところから見る限り、今日は営業日らしい。
「話だけでも聞いてみたら? 何か情報があるかも」
「そうね……あんまり期待はしてないけど」
ここはリグルに賛成し、一同ミスティアへと歩み寄る。
「おーいみすちー。これから出店かい?」
「お腹すいた!」
「あ、リグルに氷精と……えーと、巫女!」
振り向いた彼女に巫女呼ばわりされ、霊夢は肩を落とす。
「霊夢よ。前も言ったでしょ?」
ミスティアは、夜雀……鳥だ。故に物覚えは悪い。普段森で会うリグルや、宵闇の怪であるルーミア、あるいは経営している八目鰻の屋台の常連等、普段会う人の名前以外は、なかなか覚えられない。
それでも、霊夢を巫女、チルノを氷精であると覚えているだけでも進歩だろう。
「残念だけど、今日は屋台は中止なのよ」
車を引くのが疲れたのか、ミスティアは倒れた老木に腰を下ろし、残念そうに溜息を吐いた。
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