40人が本棚に入れています
本棚に追加
月の綺麗な夜。
三日月の輝きが灯りの消えた田舎町を優しく照らしている。
住民はもう眠りについてしまったのだろう、すっかり静まり返ったメインストリートの真ん中に闇に溶けるような黒い服を着た少女が立ち尽くしていた。
風が肩で切り揃われた血のような赤髪を優しく揺らす。
少女はそっと髪を抑えて今まで地面を写していた視線を上げた。
その目はどんよりと濁り、何も写していないかのようだった。
「……森に行かなくちゃ」
誰に言うわけでもなくポツリと零れた言葉。
その声はとても機械的で、無感情だ。
こつこつと石畳の道を進み町の外れまでたどり着くと、少女は一度歩みを止めた。
目の前に生い茂る木々を暫く見つめて一度だけ町を振り返った。
別れを惜しむわけではない。
ただもう戻ることはできないのだと、改めて心に刻み込んだだけ。
少女は視線を戻して森へと足を踏み入れたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!