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「どうだい、『いーちゃん』。ここのラーメン美味いだろ?」
隣の学生服を着た少年が話しかけてきた。
はて?
この人は誰だっただろうか?
全く思い出せない。
クラスメートなのだろう、それくらいは分かる。
僕の名前の頭文字は『い』から始まるので僕のことを『いーちゃん』や『いっくん』と呼ぶクラスメートは多かった。
僕は教室の中で愛嬌のある面白い奴だと認識されている。
別にこれは自惚れではない、ただの事実だ。
なぜ、こうも自信を持って言えるのかというと僕自身がそのようなキャラクターを教室で演じているからだ。
人間関係を円滑にするため自分をひた隠し、自動的に演技し続けるという技術を僕は有していた。
おかげで僕はクラスからあぶれることなく大衆に紛れ込んでいる。
僕の本性は混沌とした黒だった。
それは太陽を浴びれば美しく映える漆黒の黒では決してない。
あらゆる色を混ぜ、日の光さえも吸収し出てこれなくなるような底知れない闇だ。
僕はクラスメートのことを記録として覚えているが記憶として覚えていない。
だから、彼に話を合わせることは出来ても彼のことなど一向に思い出せずにいた。
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