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木々を掻き分けて進むと、やがて広まった場所に出た。
崖の向こうには、赤紫色に染まった空と、自然豊かな村が一望できる。
「ふーん…」
俺は風景とかそんなものに興味はないが、好きな奴ははしゃぎそうな感じだ。
特に目の前にいる兎なんかは。
「どうですか?すっごい綺麗でしょう?」
「まあ」
案の定、機嫌も直ってしまったみたいだ。
テティは俺の答えに嬉しそうに微笑むと、また景色に目をやる。
「私達が暮らしてるあの村、ルーナって言うんです。自然も食物も豊かで、みんな優しくて温かくて、私ルーナが大好きです」
「…そうか」
確かに今日会った獣人達はみんな、初対面の俺によくしてくれた。
最初こそ煩わしく感じたものの、その優しさはひねくれた俺にも届いた。
つい昨日までは、向こうの世界で化け物みたいに恐れられていた俺が、今日は見知らぬ土地で歓迎されているなんて。
なんだか少し可笑しかった。
「もうちょっと休んだら、帰りましょうか。きっとお母さんが美味しいご飯作って待ってます」
「俺も行っていいのかよ?」
今更かもしれないが、これ以上世話になって良いのだろうかと思う。
「だって他に行くところないんでしょう?」
「そうだけど…」
「なら黙ってお世話になってればいいんですよ。私もコータさんがいると楽しいですし」
相変わらず強引な奴だ。
まあ、そのおかげで助かっているんだが。
そうだ。帰ったらシルフィアさんも含めて、きちんと礼を言おう。
そう決心してまた景色を眺める。
二回目に見たそれは、さっきと違って素直に綺麗だと感じた。
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