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漆黒の夜闇を一筋の光が走った。垂直に。一秒にも満たない一瞬の間。
昼でも暗い静寂な夜の森でその光を見たのは、たった二人だけだった。――いや、正確に言うとたった今三人になったか。
二体一身の塊がその閃光を受けて真っ二つになっていた。ドシン、ドシンと重力によって落下した二つの塊は、人気の無い森に地響きのような衝撃をもたらす。
「……な、何が起きたんだよっ!!」
ややあって、三人のうちの倒れていない一人が恐怖とも驚愕とも取れる叫び声を上げた。
夜目でもわかるがっしりとした体つき。身長は高く180cm前後はあるだろうか。それでもまだ声は若々しく大人というよりは少年の印象を思わせる。
ところが、少年の前に転がっている二つの塊はそんな少年の身長を優に超えるほどの大きさの巨大な塊だった。
「何で? いきなりどうしたって言うんだよ!
……な!?」
ようやく少年はもっと重大な事実に気が付いたようだった。現実離れしているが間違いなく今このときに起こっている事実。すなわち、自分が実際に見たこともなければ触ったこともないはずの月のように青白く輝く凶器が、自分の両の手にしっかりと握られていたのだ。
少年は震える手でその凶器を頭上高く掲げた。凶器と言えば確かに凶器。それ以外に本来の用途は見当たらない物である。だがそれはただの凶器ではなかった。
月の無い夜に自ら青白く光るその刀身は鋭く長く、耳を澄ませば高い金属音が聞こえてきそうだった。少年の手元では時代劇でよく見る侍が握る部分――柄が少年の手によって握り締められていた。
「……か、刀?」
なぜ自分がその刀を握っているのか問う暇は、しかし少年にはなかった。
「オォォォ……オォォォ……」
倒れた二つの塊が、背中に悪寒の走る低い唸り声を発しながらゆっくりと起き上がった。
少年は我を忘れて反対側へ走るしかなかった。
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