第一話 その始まりの日の雨

3/15
前へ
/454ページ
次へ
そんな誰も近付かない夜に何をしに行ったのか。噂を確かめにである。 紙都が通う高校ではある噂でもちきりだった。つい一週間前程に森の曰わくとやらを知った若者4名が面白半分に森に入ったきり帰ってこず行方不明になったという噂。 実際、テレビのニュースでも流れており、警察が捜査をしていたりもした。 ところが一向に捜査が進んだ噂もニュースも流れなかった。そこで紙都は、この南柳市の東の外れに面している奥深い森へとやってきたのだった。 この森では、紙都がまだ幼い頃に紙都の父親――普通の父親ではないが――が死体で発見されたらしい。当時の記憶はほとんど残っておらず、そういうことがあったらしきという事実しか頭の中に残ってはいないが、紙都には父親の件と今回の件に何か繋がりがあるような気がしていた。 そして、紙都の勘は見事というか残念というか当たってしまったのだった。 「お! 新しい書き込みがある!」 紙都が妖怪出現情報を集めている掲示板「妖怪事件簿」では、南柳市を含む県内全域の妖怪絡みの情報交換がなされている。情報交換と言っても、県内で起きた様々な事件を勝手に妖怪の仕業と結びつけて語り合うだけなのだが、どうもその中に真実の情報が紛れ込んでいるようなのだ。 もう埋もれてしまったが、一週間前の森の事件の書き込みも、かなり紙都が実際に体験したことに近い内容が書かれていた。 これらの情報を発信している人物が妖怪をどこまで信じ、正確に把握しているかはわからないが、少なくとも自分と同じような立場ではないことだけは確かだと紙都は考えていた。 母親から真実を告げられたときに、「人間を守っているものは誰もいない」と教えられたからだ。 新しい書き込みは紙都の立てたトピックに対して書かれていた。 「ヌカヅキ  8月20日 03:42  ―――――――  南柳市の森での行方不明事件に関して情報求む」 ヌカヅキとは紙都のハンドルネームである。 「サヤ  8月21日 14:37  ―――――――  それって「忌の森」の事件かな? 私の知り合いが朝早く行ったら、妙にへこんでいる所があって、何か巨大なものが倒れた跡みたいって言ってたけど…」 「これだ!」
/454ページ

最初のコメントを投稿しよう!

543人が本棚に入れています
本棚に追加