第三話 火血刀

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紙都は雄叫びを上げた。思わず耳を塞ぎたくなる地鳴りにも似た声だった。 「紙、都?」 問いかけに答えることはせず、紙都は猛然と疾走した。その先にはついさっきまで自分を殺そうとしたはずの男が地面に足をついている。 「そんな、これが鬼の力ーー」 言葉を十分に発する間もなく紙都の拳が男の顔面に叩きつけられる。男の体は衝撃に耐えられず壁へと吹き飛ばされた。 続けて連打。一つ一つが壁面を割るほどの連撃。 (あんなの、あんなの紙都じゃない) 沙夜子は自分の体が勝手に震えているのを感じた。同時になぜか哀しみにもにた怒りが沸々と沸き上がってくる。 (やめて) ぎゅっと強く両手を握る。沙夜子の瞳に映る紙都の背中が濡れていた。 紙都は男の胸ぐらをつかみ壁に押しつけると、もう片方の手で顔を殴りつけた。 (やめて!) 何度も何度も。 (やめて!!) なぶるように。 「やめて!!!!」 沙夜子の言葉が届いたのか紙都の動きが時計の針が止まるように止まった。 その隙を縫って男は壁から這い出した。そのまま鎌を振るうと、強烈な風が男の周りに集まっていき、空間ごと切り取ったかのように目に見える風の層が出現した。 「侮っていた。次は必ず殺す」 その言葉だけを残して、男は姿を消した。 「終わった…… あ、ちょっと!」 沙夜子は駆け出して、倒れかかった紙都の背中に両腕を伸ばした。が、その体重が支えられるわけもなく共に床に倒れる。 「痛いわね もう……」 崩れ落ちた紙都は眠っているように穏やかな顔をしていた。 沙夜子はその頭を膝に置いて目や口をいじくり回した。瞳はいつものように黒く、尖った歯ももうない。 「戻ったのね。よかった」 紙都の顔に滴がポタポタと落ちていった。
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