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「とは言っても息子さんだけどね。高崎秋文、時期当主にでもなるんじゃないかね」
「そう―――ですよね」
高崎さんがあんなに若かったら驚きです。
しかしながら、どうやら私は大変な人に声を掛けてしまったようでした。
「今回は良かったものの、次は粗相のないようにしておくれよ、高崎さんは容赦がないことで有名だからね。潰されちゃ適わないよ」
お姉さん方は小言を言いながらまた客引きへと戻っていきました。
「でも、そんな残忍な人に見えなかったけどなぁ・・・」
確かに表情に影があるけれど、秋文さんの手は暖かく、柔らかい笑顔で私なんかと接してくれた。
それが作り物の笑顔だとしても。
暗い部分を隠しているのだとしても。
「私はもう秋文さんの術中に嵌っているのかもしれませんね」
私は高崎さんが去った方角を見つめる。
当たり前のように高崎さんの姿はもうなく、雪に刻まれた足跡だけが奥に伸びているだけでした。
びゅう、と
不意に冬の冷たい風が吹きます。
「――寒い」
長い間外に出ていたせいか身体が冷えてしまいました。
私は着崩していた着物を直そうと着物に手をかけようとしましたが
「あ――お金」
まだ手に握られた儘のお金に気が付きました。
「返さないとだめだよね・・・うん」
だって私、あの人に何もできてないのだから。
「高崎秋文―――さん」
またお話したいな・・・。
また来てくれるかな
私はそんな事を考えながら私の働く遊郭、牡丹へと戻りました。
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