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サクサクサクサク
私は雪道を歩幅を少し広げて歩く。
サクサクと鳴る雪の音が私を苛々させる。
何故立ち止まったのか、と。
纏わりつく雪が私の苛々に拍車をかける
道草程度なら多少時間の猶予はあったのだが、オヤジの気性が少々荒くなっている事を思い出した私は中々の焦りのなかにいた。
時は金なり。
道草も危険きわまりないのである。
しかしながら
「―――はぁ」
私は溜め息をつく。
今、私の置かれている状態を忘れるほどにあの少女に私は心が揺らいでしまった。
本来なら、その絡まった腕を即座に払いのけ、オヤジの下に急がなければならないのにあの少女に声を掛けてしまった。
さらに金まで渡してしまうとは
「私も焼きが廻ったか・・・」
嘘。
あの少女が不憫に想えた。
「―――嘘だ」
年幾ばくもない少女が遊郭で働く姿に哀れみを覚えた。
「―――嘘だ」
あの少女の処遇を考えると同情心が芽生える。
「―――嘘だ」
使える女だと思い、唾をつけておいた。
「―――嘘だ」
否、私はそう想おうとしているだけだった。
情けない話、事実は、あの少女が彼女と重なってしまったのだ。
あの少女は彼女とは全然形容も、声も、喋り方も違う。
けれど重なってしまった。
そんなお水という少女が怖くなった。
一刻も早く立ち去りたかったのだ。
「はぁ」
白い息が儚く消える。
顔を上げるとシトシトと降る雪が私の顔に落ちては溶ける。
傘など忘れていた。
「―――冬花」
彼女の名を呟く。
雪に耳を傾けると、彼女の声が聞こえる。
実際は聞こえていないのだけれども―――。
でも、それはきっと脳髄が彼女の声を奥の奥までしっかり刻みつけているんだろう。
そんな気がする。
・・・・はあ―――。
「あの少女と彼女が重なった――」
それだけだった。
それだけで私はこの様だったのだ。
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