始マル

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さくっ、さくっ、さくっ 白い雪、しとしとと。 私の黒い頭を白く染め上げます。 「――ふふ」 白髪みたい。 さくっ、さくっ、さくっ 番傘はしておりません。 両手が塞がっているものですから。 さくっ、さくっ、さくっ 「――ふぅ」 それにしてもこの時期の早朝はだいぶ冷え込みますね。 手が悴んでしまいます。 さくっ、さくっ、さくっ そういえば、かれこれ1、2時間はこうして作業しておりました。 悴んで当然ですね。 さくっ、さくっ、さくっ うん、十分な大きさです。 私は其れを掘り下げた地面に投げ入れます。 「ふふっ」 吊り上がった両頬がまるで私の幸福を表しているよう。 嬉しい、嬉しい、嬉しい この壱時間が、この壱分が、この壱秒が 貴方様に捧げる時間だなんて。 さくっ、さくっ、さくっ あらあらよく見れば綺麗な娘 白い装束に胸に真っ赤なお花を咲かせ、人形のように肌は固く白い それでも、気持ちよさそうな顔 さくっ、さくっ、さくっ 夢を見ているのですね さくっ、さくっ、さくっ きっと、幸福な夢 私は其れの頬に触る。 ひんやりとして硬い皮膚。 さく、さく、さく 「幸せですね」 だって、其の夢は永遠に醒めることはないのだから。 さく、さく、さく 私の目から温かい何かが頬を伝い、落ちる。 寒かったでしょう 辛かったでしょう 怖かったでしょう さく、さく、さく でも、ここでならもう安心です さくっ、さくっ、さくっ ざく 安らかに眠りなさい。
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