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幸福な夢を見た。
どんな夢であったかは覚えていないけど、幸せだったと感じる。
とにかく幸福な夢であった。
夢から覚めた私が見たものは
薄汚れた狭い天井と汚い窓。
朝から億劫な気持ちになる。
とんっとんっとんっ
「坊っちゃん、朝ですぜぇ」
ドアのたたかれる音と、少し甲高い男の声がする。
そういえば
仕事の呼び出しまでは、まだ時間があり、やることもない私は仮眠をとろうと床に就いたのであった。
私は億劫な気持ちを拭いながら玄関のドアを開ける。
そこには190cm程度の背丈に黒い帽子に黒いスーツ、黒い靴でそろえた20代後半位の男性が立っていた。狐顔には銀縁の眼鏡をかけている。
「成島さん。もう、25なんでその『坊ちゃん』と呼ぶの止めてもらえませんかね?」
「いーや、まだ坊ちゃんは私から見たら坊ちゃんですよぉ」
ニヤリと嫌な笑い方をするこの人は成島さん。
私の所属する組の実質的上から二番目であり、さらに私の教育係である。
成島という名は幾つもある内の一つのようで、本名は誰も知らない。
仕事柄、名が知れ渡ることを良くは思っていないのだろうけれど、それでも敵は多いらしい。
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